Gakusyu forum With Me ― 私と楽習フォーラム ― 

手作りと介護を組み合わせた、
一人ひとりに優しい教室を作りたい

松永美佐子先生(Mee-coビーズ教室)

ビーズ教室の講師として活動しながら、ホームヘルパーとして介護の仕事もされている松永先生。まったく分野の異なる職種に思われますが、一人ひとりと向き合うことから共通するものがあると語ります。介護が必要な人も、そうでない人も、作ることを楽しめる活動をしたいと、次のステージを目指しています。

 

ビーズ教室も介護も、一人ひとりに合った対応を

―松永先生はなぜ、ビーズの仕事と介護の仕事を両立して続けられているのでしょうか。

どちらも大好きでやめられない仕事です。はじめのうちは、訪問介護とビーズ教室はまったく接点がないと思っていましたが、どちらも相手は人間ですから、つながるところがあるんですよね。介護もビーズ教室も、一人ひとりが違って、相手の方に合った対応の仕方を常に考えています。

介護を受けられる方の中には、昔、針仕事が得意でお部屋にミシンがあったり、作ることが好きな方もいらっしゃいます。同じ高齢者の方でも、寝たきりで介護が必要な方もいれば、一方ではお教室で元気に小さいビーズも使ってアクセサリーを作る方もいる。そのギャップは何だろうと思うようになりました。


―松永先生は、介護と手作りをつなげられたらと考えていらっしゃるそうですね。

以前、ビーズアクセサリー講師をされていたご年配の方が第一線から退いた後、私のお教室に生徒として通ってくださったんです。しばらくして具合を悪くされて通えなくなったのですが、「私が訪問する形で講習をしましょうか?」と聞いたところ「やりたい」と。
その方もお身体の調子が悪い時があるけれど、月1回、私が訪問して行うお教室を楽しみにしてくれたのが嬉しかったです。
介護が必要な方にも、同じように楽しんでもらいたい。そのような方々にとって心の支え、生きがいの一つと思ってもらえるなら、私は生徒さんが1人でも2人でも講習をやりたいなと思っています。


 
 

認知症になっても「嬉しい、楽しい」と感じる感情は同じ

―オールアバウトライフワークスでは健康寿命を延伸するための趣味教室の事業開発を行っており、実証中の経済産業省補助事業でも、介護現場の声として松永先生にご意見を伺ったり、認知症当事者の方向けのレッスン実証にもご協力いただいています。実証に参加されたご感想をお伺いできますか。

昨年の2年目の実証では、認知症とともに言語障害のある方を担当させていただきました。介護の仕事で認知症の方に接することは慣れているのですが、言語障害の方は初めてでした。

その方は昔お花を習っていたそうで、手芸も大好き。言語障害で話すことがうまくできないけれど、おしゃべりをしたいんですよ。片言の単語を、「昔」「刺繍」って言葉にしながら、昔作ったという刺繍の作品を見せてくれました。表情と身振り手振りで想いはちゃんと伝わってきます。

「フェイクフラワーのポットアレンジ」を作るレッスンでも、「作りたい」とやる気があったので、できる限りご自身で作ってもらおうと思いました。「手、痛い」と仰ると、手が痛いんだなって分かりますから、右手が痛くてできないところだけお手伝いしました。言葉の障害は思っていたより大変ではなかったです。軽度の認知症があっても、「嬉しい、楽しい」と感じる感情は同じです。作るのが大好きだと伝わってきたので、私もすごく嬉しかったです。とても貴重な経験をさせていただいて大変感謝しています。


―レッスンを重ねることで、生徒様にはどのような変化がありましたか。

レッスンの終わりに次回作る作品を伝えると、誰に見せるか、誰にプレゼントするかなどを考えるそうです。また、週1回来られるリハビリの先生に完成品を自慢するのが楽しみだったそうで、作品を見せたところ「すごい!本当に作ったの?」と驚かれたそうです。「デコ箸袋」を作る時は「これは娘にあげる」とか、次のことを楽しみにされていましたね。
訪問する日にはいつも玄関で、笑顔で迎えてくださいました。本当に楽しみにしてくれていることが伝わってきて、最終日には涙が出そうでした。

▲お洒落なデコ箸袋(デザイン/ウェルネス教材開発チーム)

―普段のお教室での教え方とどのようなところが違うと思われますか。

お話をすることも介護のうちの一つで、訪問介護でも黙ってお世話するわけではないんです。ご挨拶して会話から始まります。「今日は調子どうですか?」「どこか痛い?かゆいところはないですか?」「一週間どうでしたか?」と。実証の講習の場合もあまり意識はしていないのですが、介護寄りの話し方になっているかもしれません。「1カ月どうでしたか?」「朝ご飯は何を食べましたか?」といった会話から始まり、お話を気長に聞いて、「大変でしたね」「嬉しかったですね」と寄り添って傾聴する。そこは普段のお教室と違うかもしれません。

人とのコミュニケーションは大事ですから、外に出られなかったりするとさらに人恋しくなりますよね。作品を作ることももちろんですが、人と話すことも楽しみの一つになっているのではないかと思います。


―実証に参加された後、期待することは何でしょうか。

私は手作りと介護をつなげたいとずっと思っていたのですが、一人では実現が難しいところ、オールアバウトライフワークスが経済産業省の補助を受け実証を行うと聞いて、ぜひ参加したいと思いました。 3年かけての実証により、良い結果が出ていると聞いています。この事業を通して介護予防につながる「ものづくり」がたくさんの方に広まることを期待します。私個人でもできることを進めていきたいと思っています。


―松永先生の普段のお教室には90代の方も通われているそうですね。

今年91歳を迎えられて、夏は体調を崩してお休みされていたのですが、涼しくなったら元気に復活されました。私もそういう元気な人になりたいと思っています。コロナ禍のためレッスンに来られなくなった方もたくさんいらっしゃいます。「他はどこにも行けないけど、お教室だけは行きたいと思うから、そのために頑張ってる」と言っていただけると、とてもやりがいがあります。 生徒の皆様が自分のペースで楽しんで制作できるように、一人ひとりを大切にしています。何よりも生徒さんの喜ぶ笑顔に、いつも元気をいただいています。

経済産業省補助事業…経済産業省「認知症共生社会に向けた製品・サービスの効果検証事業(2020~2022年)」のこと。オールアバウトとして採択され、MCI/軽度な認知症の方を対象に認知機能低下抑制や「生きがい」を持っていただける趣味教室の事業化をオールアバウトライフワークスが企画し、全国複数の自治体をはじめ病院や介護施設の協力のもと、事業化に向けた検証を行っている。集められたデータをもとに公的機関で分析し、学会や論文の発表を行っており、国や多くの企業団体からその成果に注目いただいている。

▲フェイクフラワーのポットアレンジ(デザイン/ウェルネス教材開発チーム)

 

コロナ禍だからこそ、ネットショップを1日で立ち上げた

―松永先生が定期的に参加されている百貨店の催事イベントについて伺えますか。

佐藤和枝先生、腰本優子先生と一緒に「トリアスソウタシエ」という名前で出展しています。コロナ禍の影響で百貨店のイベントが減っている中、出店できることは大変嬉しく思っています。
百貨店での催事販売は、ソウタシエを知らない方に向けて情報を発信する場所でもあります。3人とも作品のカラーやイメージが違っていて、いつもたくさんの方に興味を持っていただいています。今後も力を入れて発信していきたいと思います。


―コロナ禍のため、活動の中で変えたことはありますか。

ネットショップを始めました。今年で3年目になります。百貨店の催事の後にネットショップに作品をアップすると、遠方で催事に行けなかったという方も購入してくださるので、上手につなげていきたいなと思います。

私は基本的に波に乗るタイプで流れに逆らわないようにしています。無理なことはできないけど、「なるようになる」と思っているので、来た波に乗りたいと思っています。
コロナ禍で教室も催事も減ってしまうのは仕方ないことだと思います。それでも何かしなきゃと思った時に、「ネットショップをやろう!」と思い立ち、1日でサイトを作ったんです。おしりに火がついたというか。来年は「トリアスソウタシエ」の3人で個展を計画して準備を進めています。

 

Column

 

松永先生の心に残るキット
デージーチェーンのアレンジで編むラリエッタ~ラフィネ~
(デザイン 松永美佐子)

作り方は簡単ですが、一見すると「どうやって作るのだろう」と思われることが多かったので、研修会に適しているのではとデザインを提供しました。
ベルフラワーのビーズが、単品で見た時は色がイメージと違うと思っていたのですが、検証を一緒に担当してくださった先生方と一緒に試作したところ、「意外といいね」と満場一致でまとまった思い出深い作品です。ロングネックレスにもアレンジできて、今でも着けてくださったり、SNSでアップしてくださる方もいると、とても嬉しいですね。

Voice   生徒様の声

 

松永先生の教室に通い、一生の趣味に出会えました

(橋本久子様/神奈川県)

松永先生の作品を見て、デザインと色使いが素敵でしたのでぜひ教わりたいと思いました。明るく誠実で優しく、そのお人柄にも惹かれました。松永先生の教室に通って十数年になり、毎月楽しく作品を作っています。良い先生に巡り会えたことで一生の趣味に出会えました。

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