Gakusyu forum With Me ― 私と楽習フォーラム ― 

「私でも人の役に立てた」という精神的な豊かさをいただける

鈴木朋子先生(sakurako☆クロッシェ)

茨城県でかぎ針編みのお教室を開いている鈴木先生。以前から福祉に興味があったと語る鈴木先生のご活動はお教室にとどまらず、高齢者施設に入居する方などへのレッスンも行われたそうです。教え方の引き出しが広がり、人の役に立てるという喜びを感じながら活動されています。

 

震災後の教室スタート。「こんな時だから編み物がしたい」

―鈴木先生がかぎ針編みに惹かれた理由をお伺いできますか。

30歳を過ぎた頃、心身共に疲れきって「家の中で一人で楽しめること」を探し出会ったのがかぎ針編みでした。本を買って独学で始めたのですが、その時の本が小物の編み方を紹介していて、コースターくらいの小さいものなら1日で完成させることができました。

当時、仕事もしていなくて、自分には何の生産性もないのではないかと思っていたので、作ったものが目に見える形で残ることが私には良かったようです。

最初からきれいに編めたわけではありませんが、1本の糸が何かの形になっていく、間違っても何度も解いてやり直せることに癒され、かぎ針編みに夢中になりました。そして自然と心も身体も元気を取り戻すことができたんです。今でもかぎ針編みは私の精神安定剤。場所を気にせず、どこでも編めるのも魅力かなと思います。


―なぜお教室を始めようと思われたのでしょうか。

日暮里にあった小須田逸子先生の手芸店で作品の委託販売をさせていただきながら、その2階のお教室でジュエリークロッシェとクロッシェカフェを習い、資格を取得しました。

それまでかぎ針編みは独学だったので、編み方を覚えるまでは上手く編めなかったんです。丸く編みたいのに楕円形になってしまったり…。何十冊と本を買って調べて、ようやく編めるようになったのですが、クロッシェカフェを受講して教科書を見ると、何年もかけて覚えたことが全て詰まっていて。それに感動し「私のような人にクロッシェカフェを知ってもらいたい」と、お教室を始めようと思いました。

「教科書通りにお伝えすれば間違いない!」と思えたことも心強かったです。「何でも持ち込みのものを教えます」というレッスンだとハードルが高かったのですが、手厚い教科書もある講座なら教える側も安心感がありますし、習う方にとってもご満足いただけるのではと思いました。

生徒募集のため委託先でチラシを置いてもらったりブログで告知して、最初は3~4名の生徒さんに体験会を行いました。ですが正式なレッスンを始めようとした頃に東日本大震災が発生してしまったんです。
茨城県でも停電や断水になった地域があり、そんな大変な時に新たにお教室を始めることなど不謹慎ではないかと思ったのですが、生徒さんが「こんな時だからこそ編み物がしたい」と仰ってくださって、本格的にスタートしました。


 

編み物で救われた経験から、自分も誰かの役に立ちたい

―鈴木先生は高齢者施設でもレッスンを行われたそうですね。

現在はコロナ禍のため中止になっていますが、生徒さんが高齢者施設にお勤めされているご縁でお話をいただきました。昼はボランティアで施設の利用者さんに編み物をお教えして、夜はスタッフの方々への福利厚生の一環で通常の編み物教室をしていました。

施設に入居されている方々の年代は、編み物のご経験がある方ばかりです。新しいことを1から覚えるのではなく、以前やっていたことを思い出しながら「こんな毛糸があるの?」「指輪が作れるの?」と楽しそうに編みたいものを選んでいたのが印象的です。 ほとんどの方が車いすで、手が不自由な方も多かったのでサポートしながら一緒に編むような雰囲気でした。

100歳のおばあさまは、コロナ禍になってからお会いすることが叶いませんでしたが、ふわふわな毛糸で編んだショールがお気に入りで、最期までずっと着けてくださっていたそうです。ご家族から「編み物の先生にも、いいものを教えてくださって、ありがとうございましたとお伝えください」というご伝言をいただきました。

他にも、あるおばあさまはワイヤーレースジュエリー(Sweet Style)レッスン1の指輪をして病院に行き、医師の先生に自慢していたそうです。また、かぎ針編みをしているうちに手がよく動くようになったという方もいらっしゃいました。

自分が編み物で救われたことがあるので、誰かの役に立ちたくて福祉にはずっと興味がありました。大きなことはできないのですが、ご縁のあった方が笑顔になってくれて、それが一人でも二人でも増えてくれたらと思っています。


 
 

様々な立場の方に教えることで、教え方の引き出しが増えた

―「ユニバーサルかぎ針あみ~ちぇ」を使われる方へ、ワイヤーレースのレッスンをされているそうですね。詳しくお伺いできますか。

「ユニバーサルかぎ針あみ~ちぇ」は、手先に力が入らないなど手先の動きに不安のある方に向けて、平田のぶ子先生が考案し開発したかぎ針補助具です。平田先生のご紹介で、ワイヤーレースを私から習いたいと言ってくださった藤井さんにお教えしています。

藤井さんは、くも膜下出血の後遺症で、右半身麻痺、失語症、右目がほとんど見えない、5以上の数が数えられないなど多くの障がいをお持ちです。福祉について専門の勉強をしていない私が指導できるのだろうか?と自信がなかったのですが、平田先生から「藤井さんの夢を叶えてあげたい」と仰っていただき心を決めました。Zoomで行うレッスンには、看護師経験がありワイヤーレースジュエリーの資格もお持ちの平田先生にサポートで入っていただいています。

藤井さんは、動かない右手にあみ~ちぇを装着し、左手だけを動かして編み、かぎ針で編むワイヤーアクセサリーディプロマ課題に挑戦中です。楽習フォーラムの教材は両手が使える方に向けて開発されているので、藤井さんへのレッスンは完全オリジナルにして、難しいこともありますが、レッスンの終わりにいつも藤井さんが「楽しかった!」と最高の笑顔を見せてくださるので、私自身が満たされています。


―高齢の方や藤井さんに教える経験を通して、鈴木先生にはどのような気づきがありましたか。

通常のレッスンでは両手が使える自分と同じ感覚で教えますが、高齢の方の中には両手が上手く動かないなどもあり、今までの教え方が通用しないこともあります。ですから自分の伝え方を変えるわけですが、その工夫が勉強になりました。

藤井さんに合わせてより分かりやすく指導した方法も、普段のお教室ですごく役に立ちます。たとえば、たくさんの数を数えられない藤井さんが間違えないようにマーカーの数を増やした作り方が、普段でも同じようにマーカーの数を増やせば誰でも間違いにくくなるとか。高齢の方や藤井さんにレッスンしたことで、より教え方の引き出しが増えたと感じています。

また、普段自分が接しない方と接することで、精神的にも豊かになったように思います。気持ちが大きくなるというか優しくなれるんですよ。もともとは自分のために学んだ編み物が、誰かに求められて応えられている。「私でも人の役に立てた」という気持ちをいただけることがすごく嬉しいし、レッスンでしか味わえないものなのかなと思います。

▲藤井さん(左上)へのオンラインレッスン。鈴木先生(右上)、平田先生(左下)と。

▲右手にあみ~ちぇを装着し、左手でワイヤーを動かして編む藤井さんの手元
 

お教室をやっていたから、自分自身も成長できた

―鈴木先生の普段のお教室はどのような雰囲気でしょうか。

生徒さんは30~50代の方が多いです。長い方だと10年以上通ってくださって、「毛糸だけではなくて、アクセサリーも作れるから飽きない」と仰ってくれました。私は編み物を教えていますが、かぎ針限定で、作るものも小物だけです。生徒さんは毛糸の編み物がやりたくて入って来られますが、毛糸がひと段落してきた頃に違うものを作ってみたいということで、ジュエリークロッシェやワイヤーレースを編んだりされます。毛糸の編み物しか教えていなかったら、こんなに長く続かなかっただろうし、生徒さんの出入りも激しかったかもしれません。


―今後の目標をお伺いできますか。

今、お教室をやっていて良かったなと思っています。やっていなかったら、人とのつながりもなく一人で編んでいるだけで、技術もこんなに上がらなかったと思うんです。
お教室があるから、生徒さんに迷惑をかけないよう健康に気をつけるし、生活もきちんとする。生徒さんに喜んでもらいたいから、技術も学ぶし、編み物の流行や新商品の糸など新しい情報を仕入れようとします。

以前、将来について生徒さんと話していて、老後にもし一人になってしまっても仲間がいるといいなと思ったことがありました。

ある生徒さんが、「お教室に行ったり空き時間で編み物ができるから、母の介護に随分ストレスを感じなくなりました。でも私も60歳を過ぎて目が弱くなってきて、お教室で編めなくなったらどうしよう」と仰っていたんです。私は「編めなくてもお教室にお茶を飲みに来るだけでもいいじゃないですか。皆知っている人たちなのだから」とお話ししました。

生徒さんたちは、ご近所や親戚付き合いでもないし、職場の上下関係もない、気兼ねなく話せる人たちが集まっています。「将来、お教室という形でなくても、月に1~2回集まって、話ができる場があると良くないですか?」と聞いたら、皆が「いいですね!それまで先生やめないでね」と言ってくれて。

長くお教室を続けていく中では、様々な環境の変化で心身に悩みを抱えてしまう生徒さんもいらっしゃいます。レッスン中の会話でも自然と悩みに関するお話が出ることもありますが、そういうお話も受け止められる自分でいたいし、そのためには自分に余裕がないと受け止められないと思っているので、あまり詰め込まないようにしています。

それも大前提として主人の理解があるからできることです。お教室を増やしたいなど、新たにやりたいことがあった時は、一人で突っ走らずに必ず主人に相談するようにしています。もし反対されたら一度立ち止まります。主人を納得させる言葉を言えた時が、自分の中でも本気でやる覚悟ができた時だと思うのです。

だからこそ主人を説得して「やる」と決めたことは簡単にはやめないぞ、と。生徒さんが少なくても、ネガティブなことを考えてしまう時があっても、決めたことはちゃんとやる。細々とでも続けていこうと思います。きちんとした技術をお伝えするのはもちろんですが、「お教室に行けばリラックスできる、気晴らしになる」といった、心の拠り所となる優しい場所にしたいなと思っています。



Column

 

鈴木先生の心に残るキット

アイリッシュレースペンダント~サルマ・ヘンリー
(デザイン 鈴木朋子、アレンジ監修 岸美砂子)

ワイヤーを編んでいるのが分かる花モチーフがお気に入りです。花の編み地が見える作品にしたかったので、花の中でビーズの存在感が主張し過ぎないようにしたところがこだわりです。
キット化にあたり研究チームの先生方にご意見をいただき、お教室で勧めやすいように改善していただきました。刺し色に赤やグリーンなどを入れて、明るい雰囲気に仕上がりました。 先生方のご協力の甲斐もあって2020年にはワイヤーレースのキットの年間売り上げ1位になった、思い出深い作品です。

Voice   生徒様の声

 

親子の成長の節目は、鈴木先生から教わった作品と一緒に迎えてきました。

(藤山久美子様/茨城県)

イベントで鈴木先生の作品を初めて拝見し、今までに見たことのないきれいなビーズの作品(ジュエリークロッシェ)に目を奪われました。ちょうど習い事を探していた時期と重なり、「あの素敵な作品を自分で作ってみたい!」と通い始めました。

レッスンでは、先生が編んだたくさんのサンプルから好きな作品を選び、自分のペースで編むことができるのも大きな魅力の一つでした。
先生はいつも穏やかで、一人ひとりのレベルや性格、編み方の癖などに合わせて生徒目線に立ち、習得できるまで丁寧に分かりやすく指導してくれます。温かい雰囲気のレッスンなので一人で参加している方も多く、私も10年以上通っています。

また、先生の服装がおしゃれで、アクセサリーの選び方や着け方などがとても参考になり、レッスンに行く楽しみの一つでもあります。かぎ針で作るいろいろな作品の世界を知ることができ、認定資格まで取得することができました。
そのおかげで子どもの発表会、卒業式、成人式の髪飾り、そして入学式や卒業式の私のネックレスやブローチを全て手作りすることができました。親子の成長の節目には、必ず先生から教えていただいた作品と一緒に迎えて来ました。これからも素敵な先生と一緒にたくさんの作品を作り続けていきたいです。

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