技術は表現の手段。理想の作品のイメージをマクラメで表現する
小川大輔様(DSK craft)
マクラメの作品を独学で作っていた頃から、AJCクリエイターズコンテストやコスチュームジュエリーアワードに積極的に応募されていた小川大輔さん。その作品が瞳硝子先生の目に留まったことから瞳先生のお教室に通うことになりました。独学では習得しきれなかったマクラメの技術を深く吸収することで、作品作りでも理想のイメージを表現できるようになってきたそうです。
―瞳硝子先生のお教室に通われたきっかけをお伺いできますか。
フリマアプリで天然石を販売していたことがあり、「石を買ってくれたら石をひもで包んだブレスレットにしますよ」とセールスしたら注文が大量に来てしまって。結ぶことはネットの見よう見まねでやっていたのですが、おかしな作り方だったんですよ。マクラメという言葉すら知らなかったから、本屋で瞳硝子先生の書籍を見つけて、それを参考に作って注文をさばいたんです。
瞳先生の書籍のおかげでマクラメの作品を作ることが面白くなってきたので、作品をコスチュームジュエリーアワード2020に出品して、その翌年にAJCクリエイターズコンテストに出品したら、瞳先生が僕のSNSをフォローしてくれました。著者の先生にまさかフォローしてもらえるなんて思ってなかったからびっくりですよね。ちょうど、マクラメの技術を深めるにはどうしたらいいかと考えていた時期だったので、すぐに瞳先生にダイレクトメールを送って相談したんです。先生は僕の成長に足りないところを汲み取ってくれて、教室に通うことを決めました。とにかくマクラメの技術を学んで自分の引き出しを増やしたかったんです。
―教室と独学では何が違うと感じていますか。
教室では効率良く最短距離でマクラメの技術を習得できると思いました。他にも、作品制作に役立つ本を教えていただいたり、使いやすい道具も知れて良かったです。ハサミ一つとっても切れやすいかどうかで作業効率も変わります。道具にストレスを感じていたら、創作が気持ち良く進められなくなると思うので。あと、教室で他の作家さんと交流して情報交換をしたり、いろいろな発想を聞けるのも大事ですね。
▲AJCクリエイターズコンテスト2021に出品した作品「ある音楽家の」
―瞳先生のレッスンはいかがですか。
師匠と弟子みたいな関係で学ばせていただいているので本当に感謝しかないです。厳しい時は厳しいですよ(笑)。
瞳先生は、僕がマクラメで立体を作りたいのではないかと汲み取ってくれて、立体作品の技術と、マクラメジュエリー講座の2本立てで学ぶことにしました。
教室で習うことで、立体をこれまで2次元で見ていたのが、3次元で理解できるようになりました。独学の頃は、作品を立体にするには結び地を折ったり重ねたり、石を組み合わせて立体っぽくする発想しかありませんでした。巻き結びしか知らなかったわけですから、カルチャーショックを受けましたね。頭で理解できても、実際に作ること、新しい形を作ることは全然違う話なので。
また、僕は教室でも独学モードに入ってしまうこともありました。先生に確認しないで一人でトライアンドエラーをやり続けてしまうんです。違うやり方をしてみたらどうなるんだろうと進めてみたり、途中で間違いに気づいても、ごまかして進められる方法があるのではないかと、見当違いのことをしてやり直したり。
独学で作っていると、間違えても「あえてそう作りました」という方向に持っていけるんです。でも教材には正解があるから、正解通りに作ることが必要ですよね。
楽習フォーラムの教材は本当によく練られていて、単純な作業の繰り返しではないんですよ。だからこそよく見て学ばないと見落としが出てきてしまいます。
―レッスンで印象に残っている出来事は何ですか。
立体のゾウを作るレッスンがあったのですが、途中まで固く結んでしまいガチガチな結び地になっていました。本来はもっと柔らかく結ばなくてはならなくて、瞳先生が僕に仰ってくれたことがあります。「ひもには特徴があって、その特徴を活かす結び方があるの。ゴルフクラブにも種類があるでしょ。その種類によって振り方も違う。全部同じように振っていたらプロじゃないんだよ。マクラメもひもによって結び方を使い分けられなければプロじゃないよ」と。初めて腑に落ちました。先生は何度も同じことを言ってくれていたのですが(笑)。
他にも、立体のクマの課題でもガチガチに結んで、ひもをほどいてやり直すように先生から言われた時、ほどくのも大変だから「じゃあ捨てて新たにやり直します」と言ったら叱られました。先生は日頃から「ひもは大事にしなさい。30cmでも絶対に捨てないで」とさんざん仰っているのですから当然ですよね。でも叱っていただいたおかげで、今はひもの端も大事にしています。最近はシルク素材のひもを使って制作していますが、ひもの端を集めて、紡ぎ直して染色してみたいなと思っています。
▲小川さんが制作中の作品は、日本マクラメ普及協会のレシピによるドラゴン
―瞳先生に学ばれてから、ご自身の作品にどのような変化がありましたか。
僕は群馬県に住んでいるので約3時間半かけて東京の教室に通っています。電車の移動中に乗客の顔や服装を観察したり、景色を見たりすることが刺激になっています。過去のAJCに出品した作品は、電車の中で絵を描いて作品のイメージができました。
今までの作品は、「マクラメの技術でここまで作れました!」で終わっていたのですが、今は理想のイメージをマクラメで表現できるようになりつつあって、より理想に近づけようという気持ちが強くなりました。これは教室に通い始めた成果ですね。
2023年のAJCクリエイターズコンテストに出品した作品はケツァルコアトル(アステカ神話の神で羽根の生えた蛇の姿)をモチーフにして、技術的にマクラメを知っている方からは高評価だったのですが、展示の場では人形部門として他の技法の作品と比較されます。他の方の人形作品に比べると僕の作品は表情がなくて、喜怒哀楽の作り込みが足りなかったと思っています。
マクラメはあくまで表現の手段。マクラメで形を作れば終わりではないんです。ちゃんとアートとして成り立っているものを作るのがなかなか大変。マクラメを知らない人が見ても、「どういう技法で作ったか分からないけれど、この作品は良いものだね」と思ってもらえることを目指していますし、それが楽しいですね。技術的にシンプルでも素晴らしい作品は、裏打ちされた技術があるからこそ作れるのだと思います。
―積極的にコンテストにチャレンジされる理由をお伺いできますか。
コンテストは胸を借りるつもりで参加しています。ちゃんとしたものを作ることを目指して、賞はあまり意識したくないかなと思います。愚直にイメージを形にすることを続けていって、その結果として評価されるか分からないですけど、AJC以外にも日展の工芸部門など様々な公募展に応募したいと思っています。
完成した作品の一部分のモチーフを活かし、キットとして落とし込んでいくことも考えています。
また、コンテストは締め切りがあるのが良いですね。締め切りまで自分を追い込んで作るので、そのストレスが良いのかもしれません。作品制作はコンセプトを決めるところから始めますが、コンセプトが決まったら形になっていく気持ち良さがあります。上手くいかなかったところが試行錯誤ののちに上手くいく瞬間の気持ち良さは他にはないです。
コスチュームジュエリーアワードに初めて出した作品は八咫烏(ヤタガラス)がモチーフで、実は裏に魚の模様があるカレンシルバーのビーズを入れています。八咫烏がおやつの魚をお腹に隠し持っているという設定です。そこは正面から見ても分からないし、コンセプトシートにも書きません。でも見えないところを作り込むことが好きなんです。見えないところに対するこだわりが、作品のオーラとして出てくると思うんですよね。
―これからどんなコンセプトで作品を作っていきたいですか。
コンセプトはポジティブな内容にしたいとずっと思っています。希望や幸福など前向きに。憂いや悲しみではなくそこから立ち上がっていくようなポジティブな方向性の作品を作りたいです。
―今後は、瞳先生主宰の「studio IZUMO」で、マクラメフレーミングアクセサリー講座の講師をされるそうですね。
マクラメを教えることを今までやったことがないので不安もあるのですが楽しみです。楽習フォーラムの教材とカリキュラムがしっかりしているから、こんな僕でもたぶん安心してできると思っています。瞳先生や他の先生から教わった話が、教える側になってもあらゆる場面で思い出されると思います。独学でやってきた人が陥る失敗をたくさんしてきたのでそれも活かしつつ、生徒さんにひたすら誠実にありたいです。
▲コスチュームジュエリーアワード2020に出品した作品「八咫烏とワルツを」
▲作品の一部を応用し、ブローチ(手前)のキット化を検討中とのこと
並列平結びの結び地を裏返すと、中心の結び目のコブが一直線に揃っているかどうかで、作る人のマクラメのスキルが一目瞭然に分かる作品だと思います。上手に結ばないと裏側の結び目のコブがガタガタになってしまうんです。またバフレザーのひもは、結ぶ力加減を間違えるとひもの表面が傷ついてしまいます。作る人のいろいろなクセが出やすい作品だと思います。
ロゼッタコードというひもで作りますが、マクラメコードなどのワックスでコーティングされたひもに慣れていると、ロゼッタコードは扱いにくいんです。また左右結びを結ぶ長さが長くて、左右を均一にきれいに結ぶことが難しかったです。完成するとロゼッタコードのツヤが輝いてスゴイ作品になります。
瞳硝子先生(studio IZUMO/楽習フォーラム マクラメジュエリー講座、マクラメ雑貨講座カリキュラムプロデューサー・レッスン作品テクニカルデザイン)
小川さんは独学でも素晴らしい作品を作り上げていたのですが、自分に何を足したら成長できるか気づいていませんでした。足りないところは自分ではなかなか気づけないと思います。結び方を知ることと、結び方を自分の中に落とし込んで使いこなせるようになることは別の話。巻き結び以外のもっとたくさんの結びを使えるようになったら作品の幅が広がるのではと、小川さんの足りないところを足してあげたいと思いました。
独学で作れることに慢心しないで、自分に欠けているところを受け止め、基本の平結びからタッチング結び…と順を追って真摯に学んでいくところがえらいなと思います。
小川さんは教室で習うことに慣れていなかったからか、一人で進めて解決しようとするところがありました。結び方も認定講座とは異なる独自の結び方をしていました。結び方が違っても同じものを作ることはできるのですが、資格を取得して看板を出すなら、私と同じことを教えられないと困るのはご自身ですから、結び方も矯正してもらいました。今ではご自身の作品の中で使い分けができるようになりました。
これから講師として活動されますが、小川さんは良い先生になると思います。この間、ビーズアートショーのワークショップを手伝ってもらいました。参加者が約10名いる中で、小川さんは一人の方に付きっきりになっていたのですが、「この人を何とかしなきゃいけない」と思ったら周りは全く見えなくなってしまったようです。でもそれは悪いことではないと思います。先生だって最初から完璧にできる人なんていません。最初は生徒さんが1人や2人かもしれませんが、少しずつ増えていく中で、一人ひとりの生徒さんに目配り気配りする仕方を学んでいきます。人を育てるのが講師ではあるのですが、人に教えることによって自分自身も成長できます。
2年前、彼が教室に来たばかりの頃は考えられなかったですが、今はご自身の中にいろいろなものを蓄えられるようになって、それを作品としてアウトプットできるようにもなりました。今度はそれを人に教える段階に来ていて、先生を始めるには良い時期じゃないかなと思います。
photo三輪浩光
◆ 屋号
DSK craft
https://www.instagram.com/dskcraft/
※教室は「studio IZUMO」(西八王子)にて開催 https://izumoart.com/